効率の良いトレーニングの考え方 その2
以前の記事で身体、能力の成長には順番があり、それは、
「神経筋促通 → 筋持久力 → 筋肥大 → 筋力 → パワー」
という順番である事と、順番を守る方が効率的に鍛えられるという事をもう一度強調しておく。
例えば筋持久力をつけていないのに筋力の段階に進もうとしても、持久力が弱い(筋力的にも精神的にも)と効果的に追い込めない。
効果的に追い込めないと、刺激が与えられない=成長が少ないという事になってしまう。
(※追い込む=自身の能力の限界値を引き出す。多くの初心者は追い込みきれない)
一流アスリートなどのパフォーマンスに魅せられて、はやって、筋力やパワーをつける事を目指しても効率は上がらない。
一流アスリートの華やかなパフォーマンスの背景には、大きく強固な基礎が存在しているのだ。
地味な基礎、小さな事の積み重ねが一流のパフォーマンスを支えるものである。
急がば回れ、発達の順番を守る方が結局は近道になる。
順番の重要性を理解した次は、各段階でどのようなトレーニングをすれば良いのか知りたいと思われるだろう。
その前に、各段階での目的を理解することが重要である。目的を理解してから適切なトレーニング方法が導かれるのだ。
「神経筋促通 → 筋持久力 → 筋肥大 → 筋力 → パワー」
のそれぞれの段階の主たる目的は
神経筋促通:効率的・適正な動作の学習
筋持久力:長時間の負荷に耐える能力の向上
筋肥大:筋のサイズアップ
筋力:筋の最大に発揮できる力の向上
パワー:短時間で最大の力を発揮する能力の向上(爆発的動作)
である。
神経筋促通の段階については、コチラの記事でも触れた。
効率的・適切な動作を反復することで神経回路を強化する段階である。
神経回路を強化するというのは、最初は不慣れで、意識しないと行えない動作も、反復することで段々とスムーズになり、最終的には意識を働かせなくても自動操縦のようにできるようになる事を目指すものである。
通勤通学路を自動車の運転や自転車の操縦など、慣れた動作を無意識に行っていて、氣付いたら目的地についていた、といった事を経験している人も多いだろう。
いわゆる身体で覚えるという段階に至るのである。
※神経回路の学習について「この記事が分かり易い」
※無意識の動作、習慣などは基底核という脳の部分が司る
→興味のある方は「習慣の力 The Power of Habit」という書籍がお勧め。
意識を働かせなくても効率的・適切な基礎動作ができるようになれば、意識、集中力を別の対象(※)に注ぐことができるようになるのが最大のメリットである。
※トレーニングでいえば耐える、力を発揮する事など
これが基礎が大事と言われる理由の一つであると私は考えている。
例えば、消防士だと基礎訓練・・・ホースの伸ばし方、筒先の構え方、梯子の運び方・・・等々を叩き込まれるが、これらの基礎が身に付けば=身体が覚えれば、実際の現場ではホースを伸ばしながら、梯子を運びながら、状況判断や部隊の動きなどに注意を払えるようになるのである。
逆に身体が覚えるまでになっていなければ、動作の方に意識を取られてしまい、周りが見えなくなってしまうのだ。
基礎の大事さ、神経筋促通の大切さが分かっていただけるだろうか。
神経筋促通の次は筋持久力の段階、ここではレジスタンストレーニング(いわゆる筋トレ)についての限定的な話をしているので、筋持久力と表記している。
持久力という大きな枠で言えば、循環器系(心肺機能)の持久力(=全身持久力)も持久力の要素である。当然、強い身体機能を目指すならば、全身持久力も同時に高める必要がある。
筋持久力というのは、筋の収縮を繰返す能力である。長時間の負荷に耐えれるように筋肉の持久力を伸ばす段階である。
※筋肉にも白筋・赤筋という種類があるが、ここではトレーニングの目的に焦点を当てるため省略・・・筋肉の種類、特性については後々解説する。
前述したように、筋持久力がなければ上位の段階のトレーニングが効果的に行えない。また、生活および運動時で一番要求される場面が多いのも筋持久力である。(歩行、階段の昇降、姿勢の維持など)
私自身の体感では、筋持久力を鍛える過程で精神的な粘り強さ=忍耐力も養われていると感じる。
筋持久力のトレーニングが、「定められた目標を達成するまで、辛さに耐えて、やるべき事を継続する」というものなので、忍耐力もつくのであろう。
これらを考えれば筋持久力(持久力)も身体能力および成長における基礎的要素である。つまり、筋持久力(持久力)が欠けていては強い身体はつくれない。
そして、筋持久力(持久力)が成長すれば疲れにくい身体になり、トレーニングも生活も充実させることができる。
次の段階は、筋肥大である。一般的に筋トレ=筋肥大を目指すものと言われている。(このことについては以前の記事で疑問を呈した)
大手スポーツジムや書店の目立つ場所には、「筋肉をつけて基礎代謝アップ」「筋肉をつけて理想のボディ」などのコピーが並ぶ。
確かに筋肉をつけることは必要なので、それらのメインストリームを真っ向から否定するわけではない。
が、ここまで述べたように、段階を踏まずに筋肥大を目指しても効率が悪く、偏ってしまえば運動能力が低下する。
これらに注意しつつも、筋力は筋肉の太さ(断面積)に比例するので、筋肥大のトレーニングは必要である。
※私自身にも自己顕示欲はあるので、ある程度見た目も向上させたいが、私が重要視するのは「どんな見た目か?(容姿)」よりも「何ができるのか?(能力)」=「形態は機能に従うべし」である。もちろん、このような考えではない人も存在する。要はトレーニングの目的を忘れるなということ
そして、筋肥大のための刺激は、一般的に言われるストリクトな動作だけに限らないので、今後具体的なトレーニング方法の際に記述していく。
筋肥大の次の段階は筋力=太くなった筋肉を最大限活用できるようにしていく段階である。
負荷の最大値を大きくしていく段階であり、強い負荷に立ち向かっていくことで、精神的には集中力が養われると実感している。
太くなった筋肉を使って有効に力を発揮するためには、神経系の調整機能、拮抗筋、共同筋、小筋群との共同性を養う事が必要になる。
筋の断面積当りの力は約6kg/cm2であり、体重70kgの人の場合、全身の筋肉が一度に働いたとすると約17tもの筋力が発揮される(※)。
※参考「究極のトレーニング 最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり」(石井直方東京大学大学院教授)
もちろん全身の全ての筋肉を発揮できるわけではないが、タバコ1本分(0.5cm2)で3kgの力を発揮できるようなポテンシャルを持っている筋肉の力を、常に100%発揮していると、骨や腱が耐え切れない。
であるから、普段は神経系が筋力を抑制、コントロールしている。
火事場の馬鹿力というように、何らかの原因(骨や腱を保護することよりも大事な理由)で神経系のリミッターが外れると、筋肉のポテンシャルを最大限発揮することができる。
また腱や骨を保護する仕組みとして、最大筋力を発揮した場合のストレスを分散・緩和させるために、単一の筋肉だけが働くのではなく、拮抗筋、共同筋、小筋群が連動、協調することで、一か所にストレスが集中することを防いでいる。
これらの仕組みを、自分の身体が壊れない範囲で最大の力、筋肉の潜在能力を引き出せるように鍛えるのが筋力の段階である。
そして筋力の次はパワーの段階である。
パワーとは、一定時間にどれだけの仕事(エネルギー)を発揮することができるのかを測る値である。
ここでの仕事とは物理学での言葉で、
「仕事=力×変位(動かした量)」
である。仕事を要した時間辺りで測るのがパワーであるから
(数学の時間ではないので微分などの考えは省略)
「パワー=力×変位÷時間」
つまり、大きな力を素早く発揮できる能力=パワーが大きい、となる。
大きな力が発揮できても、ゆっくりとした動きならばパワーが小さくなり、素早い動きでも力が弱ければパワーも小さくなる。
※一般的な仕事という言葉の意味で考えても、大きな成果を素早く出せる人が優秀とされる事と共通しているのは個人的に面白い。
平たく言うと、パワー=瞬発力である。爆発力と言っても伝わるかもしれない。(爆弾は一瞬で大きな力を発揮する)
日常において瞬発力が要求される場面は、持久力ほどは多くないが、備えていれば有益であるし、スポーツ選手やプロフェッショナルはこの能力で勝敗が左右される。高いパフォーマンスには欠かせない能力である。
精神的には、一瞬のチャンスを逃さない力・姿勢につながると考えている。
大きな力を素早く発揮するための仕組みを養成するのがパワーの段階であるが、どのようにそれを実現するかと言うとバネの力を利用する。
バネと言うと、あの伸び縮みするバネである→画像
よくスポーツ選手などを表する時に「バネのある動き」などと言ったりするのは的を得ている。人体の中にはバネがあるからだ。
どこにあるかと言うと、筋肉と骨の結合部分に存在する。人体のバネ=腱と筋である。
腱と筋に弾性エネルギーを蓄え(バネが縮む)解放する(バネが伸びる)ことで、瞬間的な力の発揮を実現している。
この仕組みはSSC(伸長反射)と言われている。
(※論議もあるようだ。つまりSSCでない反動動作もある)
細かい議論や言葉の定義は専門家に任せるとして、瞬発力を発揮するには、
エネルギーを蓄えて解放する動作=反動を使った動作
が必要になる。
ジャンプする時にしゃがみ込んで地面を蹴る方が、立ったまま地面を蹴るよりも高く飛べる。それは、しゃがむ動作でエネルギーを蓄えて、地面を蹴る時に蓄えたエネルギーを一氣に解放しているからである。
これらの各段階の目的を理解したうえで、次は各段階での具体的トレーニング方法を記述する。
つづく